「心理学概論I 2012」の感想 (26 April, 2012)

学生から提出してもらった「出席カード」(大きい方) に書かれていた感想・質問・苦情から。

(ミードの話) この件は、オオカミに育てられた子どもの事例にも似ているように思いますが、どうでしょうか。

みんながよく知っている話 (しかも専門家にさえ本当だと思っている人がいる) が嘘だったとう意味では似たような話だね。

最近草食系男子が流行っていますが、それは進化なのでしょうか。私は狩られたいです。

数十年とか数年単位で変わる流行は進化とは言わない。それにしても、草食動物だってメスを獲得するためには命がけで戦うものだが、草食系男子というのはそういうこともないのだよね。狩られたい女子を放っておくなよ。

女性の長生きの理由はわかったが男性はどうなのですか。さんまさんのテレビでは男性は長生きする理由はないとききましたが?

男性は生殖期間が長いので、その意味では長生きする意味は十分ある。また、現代の (男女の) 長寿が医学の進歩に支えられているという点は留意すべきだ (進化環境とは異なり、長生きしやすいようになっている)。

優劣をつけることが必ずしも正しいとは限らないということが分かった。また、その優劣の定義も正しいのかどうか疑問です。見方によっては”優劣”が逆転することもあるのでは? と思うのですが、どうですか?

そう思う。優劣をつけるためには基準が必要で、その基準は恣意的に決めることができる。ヒトとゴキブリどちらが優れているか、なんてことは比較のしようがない。

心理学は科学的に証明することが難しい気がしますが、だからこそ嘘や誤解が多いんですか?

心理学には科学だけではなくて、人文学的な要素もある (もちろん主流は「科学的」心理学)。嘘や誤解はどの学問にもあって、それが訂正されていくのが学問の進歩。

人間は進化して知識を持つたびに、逆にやることがおかしくなっている気がするようなしないような……。

そんなことはないよ。おそらくここで言っている「進化」というのは本当の進化ではなくて、個々数十年の日本人の変化のことだと思うけれど、少なくとも日本人はとてもよくなっているよ。僕が大学生の頃は大学に入るとコンパに行って、もちろん未成年で酒を大量に飲まされてたまに死ぬ学生がいた。先輩に勧められた酒を断ることなどできなかった。ちょっと前まで、日本では酔っぱらいがそこらへんで立ち小便をするのはごく当たり前だった。昼間から立ちションをしているおじさんがそこらへんにいた。今より犯罪も多かったし、職場でのセクハラも当たり前だった。いまよりずっとよくなかったよ。絶対昭和に戻りたいとは思わないね。みんな『三丁目の夕日』に毒され過ぎ。

先生が思う、女性のすごいところってどんなところですか?

出産。女は男も産めるんだよ? すごいよね。

将来「主夫」の多い文化があったら、男性が「女性的」になりますか?

その前に、「主婦」の文化がここ数十年の日本の流行にすぎなかった (専業主婦は日本の伝統でもなんでもない) ということは気をつけておくべきだと思う。

ツイッターで先生が「広島弁にがっかりした」みたいなこと言ってましたが、そんなにきついですか?

美人が広島弁ばりばりだとがっかりする、という話だったと思う。多分北海道弁だとそんなことはないので、生まれ育った環境が大きいね。それにしても、広島弁のアクセントには10年目になっても慣れなくて、何度か聞き返すことがある。

(「未開社会」について) こうして学ぶことで、何か、見下している感が否めなくなってきました。

そういうことを考えるのはとても重要だと思うよ。でも、「見下している感」が否めなくなっているということは、自分がそういうふうに思っているからだよね。なぜ「未開社会」の研究をするかと言えば、われわれの進化環境に最も近い環境で生活をしている人たちだから。彼らの生活を通して、われわれが真に適応している環境のことを知ることができるし、人間の多様性と普遍性についての知識を得ることができる。

進化は必ずしも利益にのあるとは限らないけど、進化せずに残っているものもそうなのではないですか? (先生は必ず意味があるとおっしゃっていましたが。)

ちょっとここの意味が分からない。「意味のない進化」があるという話だろうか? 偶然によるものもあるので、それについてはYESだけど。

雨の日のバスってなんであんなに混むんですかね。

君が乗るからじゃないか。

自分の老後の存在意義を今のうちからいっぱい見付けておこうと思いました!

存在意義なんてなくてもいいんだよ。僕が死んでも世間は困らないよね。存在意義がなくても生きる権利は誰にもある。

質問です。私は一卵性の双子なのですが、母は私を生んでからまた双子を妊娠しました。(残念ながら流産してしまったそうです。) これはたまたまなのでしょうか? 遺伝子的な関係があるのでしょうか。

分からない。そういう体質ってあるんだろうか。

ダーウィンの進化論も怪しいとされていて

そんな話はしていないよ。

(ある食物が長生きの秘訣だと話すおばあちゃんについて) 私的には遺伝? とも思ったのですが、遺伝と食物だけでも長生きというか寿命に関係するのでしょうか?

年寄りが「これが長生きの秘訣」なんて言うのを真に受けてもしょうがないよ。本人は信じているかもしれないけれど、それが本当に長生きの原因かどうかなんて分からないんだから (1人のデータでは何とも言えない)。

自分より、少しでも優遇されている人を見つけると必死にこき下ろそうという風潮が嫌いです。

公務員たたき、政治家たたきなんかがそれね。確かにみっともないと思う。

先生はどういった所に男女の違いを感じますか?

トイレに集団で行くところ。

人間が環境に適して進化している…と言われても、二足歩行になった事くらいしか浮かばないのですが、他には何がありますか?

体毛がないとか、言語を操るとか、手が器用とかいろいろあるじゃない。

おかまの人が、社会で、女性として、堂々と生きられる国もあるのは、性差に対しての考えの違いですか。

どれだけリベラルな国かってことだろうけれど、男として生きようが女として生きようが個人の自由なので、おかまが生きにくい世の中はどうかしていると思った方がいいと思う。おかまが生きやすい世の中はおかまじゃない人にも生きやすいはずだよ。

ところで、鬱病とは、遺伝子が引き起こすものなのでしょうか?

遺伝リスクもあるが、もちろん、それだけではない。

先生が学生時代に影響を受けた本で、今日紹介されたものと重複してないものがあれば、教えていただけると幸いです。

レヴィ=ストロースの『人種と歴史』 (みすず書房) かなあ。

「女らしくしなさい」とかもう聞きあきました……。

女らしくしたほうがいいよ。

女性が子供を生む以外にも男女の性役割はあるのですか。

基本的に女性が産む性だというところに性役割の源泉はあるのだと思う。

才能差や育ちなど本人にはどうしようもできない問題を努力でどうにかした人を個人的に尊敬します。

気持ちは分かるけど、世の中努力だけでどうにかなると思うとつらい事も多い。

女性がバリバリ働いて、男性が育児するといったことがドラマでもあったように、増えていると思います。それは文化が新しくなっているということですか?

そもそも専業主婦文化というのが、非常に特殊なここ数十年限定の文化だったわけだよ。

今日の授業はおもしろかったです。

「は」が余分。

子どもを作る能力がなくなったら死ぬっていうのがどうして普通なんですか?

子どもが作れないのに長生きする遺伝子が増えることはあり得ないから。子どもを10個体産んで長生きする個体と、同じく10個体産んですぐに死んでしまう個体がいたとして、もし子どもが育つのに養育が全く必要ないとすれば、両者の適応度は等しいよね? ポイントは養育がどの程度必要かというところ。

環境に的するために (原文ママ)、進化前の状態に戻ったとしても進化というのでしょうか?

進化は常に前向きで、もとに戻ることはない。

人間の祖先はかつて、脇からフェロモンが出ていたから脇毛は必要だったのですが、今ではもう脇毛は不要となったので、そのうち生えなくなるそうです。

本当ー?

マーガレット・ミードやスペンサーは高校の倫理の授業でも出てきました。

きっと高校の倫理では心理学では既に否定されたことなんかも教わっているんだろうなあと思うと恐ろしくなるなあ。

民族によって「女性的」なのが男性、「男性的」なのが女性など、日本人の常識とは違う考え方があることにびっくりした。

話、聞いてた?

女の子にミニカーなどを与え、男性に人形などを与えたりするとやはり環境が関係して男っぽい女性になったり、女っぽい男性に育つのですか?

分からない。いろいろな要因が絡んでくるので、養育態度だけで予測するのは難し気がする。

悪い方への進化にはどんなものがあるのですか?

そもそも「良い」とか「悪い」の基準をどこに置くのか、というのが問題。例えば目のないモグラは「悪い」のか「良い」のか。「手 (脚)」の代わりに翼が生えている鳥は「良い」のか「悪い」のか。

そもそもニューハーフと言われる人々はいつ頃からいたんでしょうか? また、これには遺伝は関係していたりするのでしょうか?

遺伝も関係するだろうし、そういうひとは大昔からいたはず。

H. スペンサーなどの学者が考えて、発表したものが間違いであるという判断はどういった経緯で行われるのですか? 多数決ですか?

多数決ではなくて、学問の進歩によって否定される。

(IQの話) 世界のいろいろな国の人が集まってIQテストを作ったら、その問題は解決するんですかね?

しないと思う。それぞれの人種・民族が適応している環境は異なるのだから、単一の指標で人類全てを評価することは困難ではないかな。そもそも知能検査は人の優劣を評価するためにできたのではなく、学校教育について行けるかどうかを知るために作られたもの。

昔読んだ漫画で人が滅んだ後にナメクジが進化して、人間と同じような歴史を歩み、そのナメクジも滅んでしまいました。やはり今のような人の進化はおかしな方向に進んでいるのでしょうか。

何がおかしな方向かを知ることなどできないし、そんな基準はもともとない。進化は結果でしかないので、「そういうもの」としか言いようがない。

なぜ人は差別を悪とするのでしょうか。

差別によってわれわれの適応を損なうから、というのが僕の答え。差別が多様性を生むとこの人は書いているけれど、それは全く逆で、差別というのは斉一性への圧力なので、むしろ差別が存在すると多様性は失われる方向に向かう。

友達が先生のツイッターで「狭い教室だと生徒も先生もお互いに悪い評価をつけにくい」みたいなツイートを見たらしいんですけどそうなんですか?

狭い、じゃなくて、小規模なクラスでは、という話。お互い顔が見えやすいと悪い評価を付けにくいというのはよくある話だよね。それが大学教育でゼミクラスにおける評価が難しいということだと思う。